ほろほろ通信『見ていてくれる人がいる』志賀内泰弘

豊川市の小池啓子さん(60)は、清掃の仕事をしていた。6年前、大きな工場へ派遣された時のこと。社員さんに「おはようございます」とあいさつをしたが、ほとんど返事がなく寂しい気がした。でも「自分は雇われの身の掃除のおばさんだから」と言い聞かせて頑張った。

高校を卒業する時、父親に言われたことを思い出した。「お天とう様はお見通しだ。陰日なたなく働け」と。当時は反発したが、そのことが頭の片隅に残っていた。重労働で辞めたくなったこともあったが、誰も見ていなくても隅々まできれいにするように心掛けた。

半年ほどたったある日のこと。一人の女性社員から声をかけられた。「最近トイレがきれいですね」と。「ああ、見ていてくれる人がいるんだ」と涙が出るほどうれしかった。そして2、3年が過ぎた。そのころには「おはようございます」と返してくれる人が増えていた。それだけではない。「ご苦労さま」「いつも大変だね」「きれいにしてくれてありがとう」と言ってくれる人もいた。

つい最近、会社を辞めることになった。「最近トイレがきれいですね」と言ってくれた女性のところへあいさつに行き、手作りのポーチを手渡した。あの日のお礼に。当時のことを相手も覚えてくれていて感激した。

あのひと言のおかげで頑張れたのだ。事務所でも「今日で最後です」と言うと、顔見知りの若い男性社員が「元気でねー」と言い手を振って送り出してくれた。小池さんは言う。

「この仕事をしていて本当によかったです。派遣先の会社の皆さんありがとうございました」

<中日新聞掲載2009年11月29日>

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