ほろほろ通信『立派なお父さん』志賀内泰弘

瀬戸市の梅田和子さん(66)がスーパーへ買い物に出掛けたときの話。その日は特売日で、10台以上あるレジはいずれも長い列ができていた。順番を待っていると、すぐ後ろに幼い二人の子どもを連れた父親が並んでいることに気付いた。5歳と3歳くらいの男の子だった。上の子が大事そうにバナナを一房抱えている。

待っている間、二人の子は騒いだりせずおとなしくしていた。「この年ごろだと、じっとしていられないのが普通なのに行儀がいいなあ」と思った。梅田さんの順番が来たとき、父親に声を掛けた。「お先にどうぞ」と。

すると、意外な言葉が返ってきた。「ご親切にありがとうございます。でも、子どもたちには並んで我慢するということを覚えさせたいと思います」。そう言って頭を下げられたという。「今どき、こんな立派なお父さんがいるんだ」と驚いた。

梅田さんは電車の中で、自分よりも年配の人や赤ちゃんを抱いた人に席を譲った際に、ときどき「結構です」と遠慮されることがある。席を譲ることの難しさだ。譲る方も譲られる方も気まずくなる。だから、このお父さんの「気分を害さないように」という気遣いまでもが伝わってきた。レジの店員さんもやりとりを聞いていたらしく、目を合わせてほほ笑んだ。

「子どもの虐待のニュースが目につきます。しつけと暴力をはき違えている親がいることに驚いています。そんな中、素晴らしい子育てをしていらっしゃるなあと感心しました」と梅田さん。将来、どんな大人になるんだろうと思いつつ、3人の後姿を見送ったという。

<中日新聞掲載2012年3月25日>

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