ほろほろ通信『お兄ちゃん、これ開けてくれない?』志賀内泰弘

名古屋市名東区の横井和子さん(78)は、4つの病院へ月に7回通院している。とはいうものの比較的元気で、週に1回「戦争と平和の資料館ピースあいち」でボランティア活動もしている。

ところが、この1年くらい特に体の衰えを感じて困ったことがあるという。瓶詰などのふたが固くて開けられないのだ。海苔の瓶はガスこんろで少し温めて布巾を巻いてひねれば開く。

しかし、ペットボトルはガスで温めるわけにはいかない。栄養ドリンクもキャップが金属性で開けるのに力がいる。缶ジュースのプルトップも指先で起こせないので苦労している。「ああ、自分も年を取ったのだ」と思った。

もう10年以上前の出来事が思い出された。横井さんがドラッグストアへ買い物に出掛けた時のことだ。店から出てくると、80歳は過ぎていると思われる女性が、通りがかりの大学生らしき男性に声をかけた。

「お兄ちゃん、これ開けてくれない?」

手には一本の栄養ドリンクが握られていた。青年は気安く受け取ると、サッと開けて手渡した。にこにこして。女性はその場でドリンクを飲み干した。たったそれだけのことが、なんともほほ笑ましい光景に見えた。

その時は、「よほど疲れていて開けられないのかな」などと思ったが、それが今では自分自身のこととなってしまった。横井さんは一人暮らしなので必要なときにふたを開けてくれる人がいない。掛け時計の電池交換をする際には、誤って落ちないようにと恐る恐る幅の広い椅子に乗る。今になって、あの青年の優しさがあらためて理解できるという。

<中日新聞掲載2012年3月4日>

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