ほろほろ通信『ささやかな恩返し』志賀内泰弘

名古屋市熱田区の大西隆信さん(64)は定年退職後、社会へのささやかな恩返しとしてシーン・ボイスガイドのボランティアを始めた。視覚障がい者が映画を楽しむためのお手伝いをする活動だ。

スクリーンが見えないので、画面の風景や俳優のしぐさなどをマイクで説明する。映画の中の会話とダブらないように、簡潔で的確な言葉が求められる。そのため、大西さんが参加している団体「ボイス・ケイン(声のつえの意)」では大勢のメンバーで手分けし、何度も練り直して台本を作る。

ある映画鑑賞会で66歳の男性を会場まで案内したときのこと。とてもお元気そうで、よく笑う人だったので「本当に明るい性格ですねー」と話しかけた。「能天気ですから」という返事。

ところが、しばらく歩いているとこんな話をされた。

「僕は20年くらい前、医者から1年以内に失明しますと宣言され、その通りになってしまった。失明するまでの1年間は本当に悩み抜いたんだよ。つらかった。だけど、失明してから、ある日突然気が付いたよ。いくら悩んでも解決できないことはもう悩まないって。そこで吹っ切れて人生が変わったみたいだ」

だから今は、毎日楽しく生きているし映画も何度も見に来るのだという。

大西さんは無意識に「ありがとうございます」と口にしていた。障がい者を案内して、自分のほうが人生を教えていただいた。ボランティア活動は、あくまで「させていただく」という謙虚な姿勢が必要だと強く思ったという。「これからも『気付かされる』貴重な体験の場にしたい」とおっしゃった。

<中日新聞掲載 2012年2月19日>

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