ほろほろ通信『息子の一人旅』志賀内泰弘

学校が秋休みの10月11日、犬山市の花木希容子さん(48)の長男・優太君(小学6年)は、おにぎりと釣りざお、それに寝袋を持って自転車旅行に出発した。

「木曽川沿いに下って海で釣りをする」という一人旅の計画。しかし地図も持たず、野宿するという。引き留めたが言い出すと聞かない。自由奔放な性格で、「大きくなったらジャングルの中で生活したい」と言っているほど。たぶん、途中で不安になって帰ってくるだろうと思い仕方なく送り出した。

ここからは、後で希容子さんが優太君から聞いた話。自転車をこいでいくと、観覧車とジェットコースターの見える場所にたどり着いた。近くにいた人に「ここは海ですか」と尋ねると、そうだという。水をなめたら塩辛かったので間違いないと思い、そこで旅の目的である釣りをした。

日が暮れてきたので寝る場所を探そうと思い、再び自転車を走らせた。でも、だんだんと寂しくなってきた。途中、工事をしていたおじさんたちが「そろそろ帰るか」と言うのを耳にしたら、我慢できなくなり涙が出てきた。

尾西プールの辺りで出会ったおじさんに「この道で犬山に帰れますか」と尋ねたら「行けるけど危ないから向こう岸を走ったほうがいいよ」と教えてもらった。

しばらくすると、そのおじさんが車で追いかけてきて「一度うちへ来なさい」と言われた。一緒にいた奥さんが「この人は昔警察官だったから、言いにくいことでも話したらいいよ」と言う。

どうやら家出少年と間違われたらしい。トイレを借り、お菓子をごちそうになった後、車に自転車を積んで犬山まで送って下さった。

ところが、お世話になった人の通夜があり両親ともに出掛けて留守。そこへ高校1年の長女が犬の散歩から帰ってきた。おじさんは「男の子はこういうことがちょくちょくあるけど怒らないであげてね」とだけ言い、帰っていかれた。名前も住所も聞けずじまい。

後日、優太君の記憶を頼りにおじさんの家を3時間も探し回ったがわからない。希容子さんからおじさんへ。

「息子が大変お世話になりました。紙面を借りしてお礼を申し上げます。受けた親切は他の人にも返さないといけないよ、と教えています」

優太君は毎日、元気に学校へ通っているという。

<中日新聞掲載2011年12月11日>

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