ほろほろ通信『心配しております』志賀内泰弘

台風15号が近づいていた9月20日(2011年)。名古屋市守山区の大川孝次さん(76)は、不安な夜を迎えていた。テレビのニュースは、堤防が氾濫して浸水した民家の様子を映していた。消防署員に救助されたり体育館に避難する人たち。

人ごとのように思っていたことが、こんな身近で起きようとは。自分の住んでいる町が避難勧告の対象となったことが、何度もテロップで流されていた。そんな時、電話が鳴った。昔住んでいたことのある京都の知人からだった。「大丈夫?」。テレビで守山区という地名を見て、心配してかけてくれたのだという。

しばらくすると、今度は東京の親戚からかかってきた。「ご無沙汰していますが、よかったですかねー」。年賀状のやり取りだけの付き合いになってしまっていただけにうれしかった。さらに常滑の親友からも電話があった。相手だって自分の家が心配なはずなのに。その後も二人の友人から安否を気遣う電話がかかってきた。

翌朝、一通のファックスが届いた。文通をしている京都府の京丹波町に住む友人からだった。

「今日は朝からテレビばかり見ています。岐阜や愛知の被害がテレビで流れるたびに心配しております。朝の番組で守山区に避難勧告が出されたことを見ました。被害には遭われませんでしたか。ご無事でおられることをお祈りしています」

実は、この女性は生まれつき言葉が話せない。体も不自由で寝たきりに近いままの人生を歩んできた。それにもかわらず、人のことを心配してくれるなんて…。大川さんは彼女の真心に打たれたという。

<中日新聞掲載2011年10月16日>

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