ほろほろ通信『先生を泣かせます!』志賀内泰弘

この春、伊藤正明先生(37)は前任校の東海市富木島中学校で、特に思い出深い一人の生徒を高校へ送り出した。

それは1、2年生のときに担任をした田中あずささんだ。彼女は左耳が難聴というハンディを負っている。そのため、教室では前の方の席になるように配慮してきた。しかし、本人は大変活発で駅伝の代表選手に選ばれたり、ハンドボールでは日本オリンピック委員会(JOC)ジュニアオリンピックにも県代表として出場した。

そんな頑張り屋さんでも困難なことがあった。歌うことだ。2年生の合唱コンクールの練習でのこと。本人は一生懸命に歌っているつもりだが、音程を正しく取ることができない。泣きながら「私が歌うと賞が取れない」と言う。

伊藤先生は、心を鬼にして言った。「お前のせいでソプラノが狂ってるんだ」。自信がなくなり、声が小さくなっていた。負けん気の性格を知っていて、あえてしかったのだ。続けて「田中が歌わなきゃ勝てないぞ」と言うと、彼女は再び大きな声で泣きながら歌い始めた。

翌朝早くに出勤した伊藤先生は校舎の外から聞こえてくる歌声に気付いた。それは朝一番でコンクール曲の練習をしている田中さんの声だった。その姿を見た瞬間、涙があふれてきたという。

6時前から正門前で待っていたらしい。その日の先生との交換ノートには「伊藤先生を泣かせます!」と書かれてあった。そして、3位入賞。音程は最後まで合わなかったけれど、体全体を使って思いっきり歌った。

彼女のことを理解しているクラスの生徒全員の心が一つになった結果だったという。

<中日新聞掲載2011年07月17日>

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