ほろほろ通信『おじさんたちの涙』志賀内泰弘

名古屋市中区でデザイン事務所を経営する権内俊幸さん(59)は、忙しくても毎週木曜日の夜には仕事の予定を入れないようにしている。経営者が中心になって作る栄ミナミ男声合唱団の練習に参加するためだ。ほとんどの団員が楽譜も読めない。そんな自分のことは棚に上げて人のミスを指摘したりする。練習後の飲み会の方が楽しみという気さくな仲間だ。

年に二回ほど、老人介護施設へ出前コンサートに行く。おじいさん、おばあさんからすると自分の息子と同じくらいの年代。それが真っ赤なジャケットにジーンズといういでたちで現れるものだから、みんな驚く。

最初はオペラ曲。権内さんは「正直、うまくありません。われわれより下手な合唱団はないかも」と言う。しかし、「浜辺の歌」や「ゴンドラの唄」など懐かしい曲を耳にすると、それまで無表情だったおじいさんに笑みが浮かぶ。認知症の人も一緒に口ずさんだり、手拍子を打ったり。

「うさぎ追いし〜」と「ふるさと」を歌っていた時のことだ。権内さんの隣で歌っていたKさんの声が聞こえなくなった。ふと見ると泣いている。つられて他の団員たちも泣きながら歌うことに。Kさんに後で聞くと、つい最近亡くなった父親のことを思い出してしまったらしい。それが同じ思いの同世代の団員たちにも伝染してしまったのだ。

最後は入所者の席に移動し、全員で「青い山脈」を合唱する。「元気を贈るつもりが、元気をもらっているのは私たちかも」と。首にかけてもらった手作りのレイは、宝物のようにずっと部屋に飾ってあるという。

<中日新聞掲載 2010年11月7日>

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