新城市の豊田慶子さん(61)は、93歳の父親と88歳の母親を長く介護してきた。父親は昔から「最後は自分の家で死にたい」というのが口癖。それをかなえるため頑張ってきた。
ときどき父親の妄想に悩まされる。「虫がぞろぞろはっている」とか「火が燃えている」とか。梅雨時には「部屋中が水であふれて家が浮いている」とか。
心配になり真夜中に何回も見に起きるので、自分も眠れない。介護の疲れもあるが、父親の最期が近づいていると思うとつらくてならない。それでも父親は「おまえのことが心配だ」と口にする。
そんな中、何人もの友達が支えてくれたという。そのうちの一人がYさん。
父親の下痢が激しいと漏らしたら「これ使ってね。新品じゃないけど洗ってあるから使い捨てにしてもらえばいいわ」とシーツをたくさん持って来てくれた。
そして「元気を出して」と栄養ドリンクも。「新品じゃない」というところが、心に負担をかけさせまいという気遣いだと分かり、うれしくなる。
もう一人はAさん。「ギョーザを作ったから冷凍して食べてね」。なかなか料理を作る時間がないことを推察してのことだ。二人とも、義父の介護の経験があり、その大変さがわかるのだ。
早速、父親の枕元までギョーザを持って行き「お父さん、心配いらないからね。こんなに私のことを気にかけてくれる友達がいるのよ」と報告。
「そうだなあ」と笑顔でうなづいてくれた。みんなに支えられながら7月14日、最期をみとった。
豊田さんからお世話になった皆さんへ。「私からも父からも本当にありがとう」
<中日新聞掲載2013年10月6日>